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「ここの海に住む人々がタキリ様を忘れてしまったことは悲しいことですけど……、でもほかの場所にはタキリ様のお力を必要としている人々はいるんじゃないでしょうか? 私とアマテラス様も新天地を探して旅をしているんです。タキリ様も、ここではない何処か新しい場所で新しい信仰をお集めになるという選択もあるんじゃないでしょうか?ご姉妹も一緒に列島を旅して、困っている漁村やなんかを助けて回るんです。そうだ、どうせなら私たちと一緒に行きましょう!素敵です、きっと楽しい旅になりますよ!」
なんとかタキリ様を励まそうと、なごみちゃんはわざと明るく振る舞ってそんな提案をしてみたのですが、どうもうまくいかなかったようです。洞窟の中は相変わらず重苦しい空気が漂い、しんと静まり返っています。
もちろんなごみちゃんだってこんな提案がみんなに賛成してもらえると思っていたわけではありません。それでもなごみちゃんは頼りない空元気をふりまかずには居られませんでした。
タキリ様のお話はあまりにも悲しすぎたのです。
「ありがとう、なごみさん。でもその御誘いはお断りしなくてはなりません。私はここを離れるわけにはいかないのです。私はここの土地神ですから」
「とちがみ、ですか?」
タキリ様の口から発せられた言葉は、なごみちゃんにかつて対峙した恐ろしい神の姿を思い出させました。
ぬらぬらと光沢を放つねっとりとした肌。ぎょろぎょろと不気味に動く大きな目玉。アマテラス様となごみちゃんの運命を変えた、タタリを与えしオオワの土地神です。
「土地神って言うのはね、なごみちゃん。その土地に宿りし魂なんだよ。その土地で信仰され、その土地で祀られてはじめて力を得る神なんだ。だからあたしらやアマテラス様の用に全国行脚ってわけにはいかないのさ。アマテラス様に仕える巫女なら、これぐらいは知っておいた方がいい」
不吉な過去の記憶に放心していたなごみちゃんに、大黒天様が優しく語りかけます。確かに眼の前のタキリ様は、オオワの土地神とは違い、清潔感があって穏やかな印象です。
土地神という言葉に、なんとなく嫉妬深くて陰湿なタタリ神の印象を当てはめていたなごみちゃんは、思わぬところで考えを改めることになりました。そして、土地神という存在を正しく理解したからこそ、なおさらタキリ様が不憫に思えてなりませんでした。
その土地に宿ってこその神様なのに、もうその土地に信仰は残っていないのです。
「そうゆうことです。それに、たとえ自分や妹たちが土地神でなかったとしても、私たちはこの土地を離れようとは思わないでしょう……。」
深い憂いのこもったタキリ様のつぶやきは、なごみちゃんの心を切なくふるわせました。自分にとって大事な意味を持つ場所を好き好んで離れたいとは思わない。そういった気持ちが、なごみちゃんには痛いほどよくわかったのです。
なごみちゃんはオオワの村が好きでした。
のん気で気楽な村人たちのことが好きでした。自分を育ててくれた長老やおばあさんが好きでした。社に射す朝日の輝きや、吹き抜ける風の匂いが好きでした。一度だって村を出たいとは思わなかったし、ずっと村の社の巫女として生きて行くことに、幸せを見出すことだってできました。
それでもなごみちゃんが村を出たのは、ひとえにアマテラス様に対する思いがあったからです。
なごみちゃんはあの数日間で知ったのです。アマテラス様が自分を信じる者に対し、どれだけ深く尊い慈愛を持っているかということを。そしてその慈愛に触れたからこそ、なごみちゃんは村を出ることを決めたのです。
それは決して村を捨てるということではありません。なごみちゃんは今でもオオワの村を愛しています。
ただ、なごみちゃんにはアマテラス様への一途な思いがあったのです。アマテラス様を慕い、仕えたいとう思いがあったのです。
その心が、なごみちゃんを旅路へといざなったのです。
ですが、タキリ様に対してそんな思いを抱くものは、もうこの土地には残されていないのかもしれません。そう考えると、なごみちゃんはますます辛くなってしまいました。息が詰まるような悲しみに、思わず涙をこぼしそうになります。
「面目ねぇ……。ほんとうに、面目ねぇ……」
堅い岩肌の上に正座してうつむいたままの正吉君の口から、絞り出されるようにしてこぼれ落ちてくる謝罪の言葉が、小さな洞窟の中に物悲しく響き渡りました。
~第四話あらすじ~
海にほど近いとある宿場町に立ち寄ったアマテラス様となごみちゃん。そこで偶然出会ったのは七福神バンドの新メンバー、大黒天様と毘沙門天様。これも何かの縁と旅路をともにすることになった一行でしたが、町に泊まったその夜に、なごみちゃんは不思議な夢を見たのです。
夢に出てきた女神様はなごみちゃんに助けを求めている様子。彼女の願いを聞き届けるため、彼女が祀られているという離れ小島の祠を目指す一行でしたが、海辺の村に住む人々は誰もその祠の場所を知りません。それどころか、海に水妖が出るようになったせいで船を出すことができないという始末。
はたして夢に出てきた女神を無事に助けることはできるのでしょうか……。
本文は夢の女神であるタキリビメノミコト(多紀理毘売命)の祀られる祠で、彼女の悲しい境遇を一行が聞く場面です。
最後に出てきた正吉君は近くの漁村に住む青年で、水妖にも恐れず一行の乗る船を手配してくれたいいやつです。
今回は書くのに苦労しました。
場面やセリフのイメージは頭の中で出来ているのにそれを上手く形にすることが出来なくて……。
文章を書いたり絵を書いたりするという作業は、まさにイメージを形にするという事なわけですから、それに苦労しているようでは、物書きとしていけないような気もします。
それと同時に、何の苦もなくイメージをアウトプットできる事なんてそう簡単に出来はしないし、それこそプロでもむずかしんじゃないのかという風にも思います。
あんまり生産的な思考ではないですね。
まぁそんなわけで、UPしようかどうか迷ったのですが、以前3LDKに「なごみちゃん月一更新宣言」をしてしまったので約束を守るためにUPしました。
はたしてこの約束もいつまで守られる事やら……。
この更新ぐらいは夏まで続けたいものです。頑張ります。
というわけで今日のキーワードは「私はなぜここにいるのか?」です。
毎日更新の連続記録がついに止まってしまいましたね。
得てして、こういった事の終わりはあっけなくやってくるものであるように思います。
残念ですが、仕方のないことかもしれません。
ただ、このままだと長期間更新が無くなってしまうという事にもなりかねないので、今日から改めて何かしら記事を書いていこうと思います。
また毎日更新を目指そうとは思いませんが、ブログがさみしくなってしまわない程度には書いていきたいです。
サイトの賑わいと言えば、先日Ozと3LDKと僕で「作品倉庫のようなサイトを作ろう!」という話をしていました。
ブログだけでは僕たちが何をやっているのかわかりにくいという事と、やはりサークルのホームページではそのサークルの作品が見れるべきであるという当たり前の着想から出てきた話です。
しかしながら、4人いるメンバーのうち作品のストックがあるのがOzだけらしいので、しばらくは実現しないかもしれません。
ですが、3LDKのPC環境は着々と整いつつあるようなので、僕自身はまるで他人事のように「早く倉庫で3LDKの絵が見たいなぁ」と期待している次第です。
僕もそれに貢献できるよう、何かしら文章を書いていきたいですね。
というわけで今日のキーワードは「天狗の仕業」です
たった今、アマゾンで注文した中山可穂氏の「サグラダ・ファミリア」を読み終えたところです。
彼女の小説のいいところは好印象のゲイや好印象のゲイでない人やかわいらしくも生々しい子供なんかが登場するところにあるように思います。
あと、情熱的な愛やら恋やらのぐちゃぐちゃも魅力的ではあります。
主人公が誰かにメロメロになっていく描写なんかは、読者の心をぐぐっとひきつけて、ガリガリ読み進ませる力を持っているように感じます。
ただ、作中の様な恋をしたいとはあまり思いません。
あそこまで自分の全部を動員して、己がすり減るのも構わず、ただひたすらに愛をむさぼるような体力気力は持ち合わせていないので。
ただ、それは作中の登場人物たちも同じではないかと思います。
それでも彼女たちは愛せずにはいられないんでしょう。
そして、そんな人々の感情をダイナミックに表現できるからこそ、中山氏のかく小説は魅力的なんだと思います。
というわけで今日のキーワードは「ヘミングウェイ・ペーパーの謎」です。
年始も年末同様に、忙しさに囚われてしまって、なかなか更新できず、元旦から約一週間ぶりの更新です。
実は、サイトに訪れるのもしばらくぶりなんですが、昨年の12月に3LDKと収穫を発起人として始まった、この毎日更新も、なんとか続いているようですね。
他のメンバーも思っていることでしょうが、もはや我々にとって、このブログは、高炉のような存在になりつつあります。一度火を入れたら最後、何があっても稼働させ続けなくてはならない。たとえ生産性が見受けられなくても、そういうこととは関係なしに、一種の脅迫観念として、我々に更新を迫ります。
火を止める契機はもちろんありました。冬コミまで一ヶ月だ、ということで始まったわけですから、冬コミの翌日2010年元旦の僕の更新(冬コミが終わっても新年の挨拶をしないわけにはいかないでしょう)を以て、一端、打ち切りにすることも出来たはずです。
ですので、1月2日に酒蔵がなんたら、を書いた人間が英断を下せば、更新は止まったでしょう。
賽は投げられた。火は再び蘇った。
誰とは言わないが、おそらく、○zによって――。
さぁ、夏コミまで更新は続くのでしょうか。