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甘々、デレデレ、女の子。
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 「ど、どうぞ。ご賞味ください」
 なごみちゃんは終始緊張し続けているようで、思わず声が裏返ってしまいました。ですが、そのことを誰かが気にすることはなく、審査員たちは一斉になごみちゃんの料理に箸をつけます。
 
 やや煮えすぎた感のあるニンジンを、上品な箸使いで口へと運ぶオオゲツ様。
 長さがばらばらであまり見栄えの良くない糸こんにゃくを、ちゅるちゅるとすする布袋様。
 少し大きすぎたかもしれないジャガイモを、割ることなく丸ごと大胆にほおばるアマテラス様。
 
 三者三様なれど、ただ黙々と食べ続ける神々の周りには、どことなく張りつめた空気が流れます。ウケモチ様の料理の時は、口に含んだとたんに感嘆の声をあげた三柱でしたが、料理に夢中になっているのか、はたまた別の理由からか、何かしらの評価を下すこともなく、淡々と食べ進めて行くばかりです。
 静まり返った会場に、料理を咀嚼するかすかな音が不自然に大きく響き渡ります。そんな奇妙な空気は、なごみちゃんを不安にさせます。
いたずらに続く沈黙に緊張感は増すばかりで、たまらず弱音をつぶやいてしまいました。
「やっぱり、おいしくなかったのかな……」
 
 今にも泣き出しそうな弱々しい声が聞こえたのでしょうか。三柱はまるで示し合わせたかの様に一斉に箸をとめ、手元に置きました。
 
 自前の布巾でおしとやかに口元をふくオオゲツ様。
 体裁など気にせず服の袖で口をぬぐう布袋様。
 湯呑みに入ったお茶をゆっくりとすするアマテラス様。
 
 三者三様なれど全員の試食が終わったということだけは、誰の目にも明らかでした。いったいどんな評価が下されるのか。会場中の注目が三柱にそそがれます。
 
そんな中、最初に口を開いたのは布袋様でした。
「こんにゃくの長さがてんでバラバラだった。でもその分つゆとこんにゃくがうまくからんで、肉と野菜の出汁の旨味を存分に味わうことができたよ。こんにゃくの役割を見事に果たしている。そしてつゆの恩恵を受けたのはニンジンも同じだ。ちょっと煮すぎているようにも思えるけど、よく味が染みてるし、そのおかげで独特の臭みも感じられないから、これならニンジン嫌いのお子様も食べれるかもしれない。たいしてジャガイモは大きさが絶妙で、つゆを吸いすぎることなく、食材本来の味とホクホク感がしっかりと残っている。」
 それだけ一気にしゃべり終えると布袋様はなごみちゃんをまっすぐに見据えて言いました。
「美味いよ。こいつは間違いなく美味い」
 布袋様の言葉に会場はどよめきます。まさかなごみちゃんの料理がこんなにはっきりと認めれれるとは誰も予想していなかったのでしょう。
 なごみちゃん自身も、料理に関してはすこぶる辛口の布袋様に褒められるなんて思ってもみませんでした。
 
「でもね……!!」
 動揺と興奮が入り混じるざわめきを、布袋様の一声が吹き飛ばしました。布袋様はゆっくりと立ち上がると、隣に座るアマテラス様の方を向き、言葉を続けます。
「確かにうまいけどね。それでもウケモチの料理とは比べ物にならないさ。格が違うんだ。あいつのは超一流の料理なんだよ。こんなんじゃ勝負にならない」
 どうやら布袋様はアマテラス様に怒っているようです。
「貴方だってこうなることは分かっていたはずだ。にもかかわらず、貴方はなごみちゃんにこんな勝負をさせた。いったいどうしてなんです?こんなことをして意味があるんですが?ちゃんとした考えもなしに、こんな茶番劇を仕向けたって言うなら美食家としてひとこと言わせてもらわなくちゃならない!」
「茶番などではないさ。あいつを見ればそれは分かるだろう」
 そう言ったアマテラス様の視線の先には、一柱の神がいました。
 ウケモチ様は対戦者用の試食皿にもられたジャガイモを一心に見つめ、一筋の涙をそのほほにつたわせていたのです。
 
「……姉上。この料理の名は一体何というのです?」
「肉じゃが、というそうよ。東の港で見つけたの」
「肉じゃが……」
 オオゲツ様の答をウケモチ様はかみしめるように繰り返しました。
 
「肉じゃが。何と素朴で愛おしい名だろうか……」

 


~第六話あらすじ~
七福神メンバーにして美食ハンターの布袋様と食物の神オオゲツヒメに出会ったなごみちゃんとアマテラス様。オオゲツ様の弟であり同じく食物の神であるウケモチ様が新装開店するという高級料理店に招待されます。開店前に特別に料理を振舞ってもらったアマテラス御一行でしたが、オオゲツ様とアマテラス様はウケモチ様の料理が何処か気に入らない様子。誇り高いウケモチ様は自分の料理が認められないことに憤慨してしまいます。そのうえなぜかアマテラス様の提案で、なごみちゃんとウケモチ様が料理対決をすることに。はたしてなごみちゃんは食物の神とまともに勝負できるのでしょうか?そしてアマテラス様の目的とは?


もうすぐ三月が終わってしまうということで、急いで書き上げました。
滑り込みセーフっていうやつですね。
ウケモチ様とオオゲツ様は同一視されることもある神様みたいですが、このお話では姉と弟という間柄にしてみました。
この二柱はかの有名なツクヨミとスサノオとの間に因縁があるので、アマテラス様としてはちょっとやりづらい相手かもしれませんが、今回のお話ではあまり遠慮してないようですね。

というわけで今日のキーワードは「ハクナマタタ」です。

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