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甘々、デレデレ、女の子。
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 ほんの気まぐれで靴下を買ってきた。
 子供が部屋の壁に掛けてプレゼントを入れてもらうためのものだ。普段ならこんな無駄遣いはしないのだけれど、なぜか買ってしまった。ここ数日、バイトで忙しかったから、判断力が鈍っていたのかもしれない。
 もちろん、二十歳を過ぎてサンタクロースを信じているわけではない。
 ただ、一人暮らしをしていると、どうしても季節感に欠けてくる。淡々と毎日をこなして、暑さも寒さもただの気温の変化に成り下がる。僕のような学生なら大抵そうだろうし、彼女がいないとなればなおさらのことだ。
 八つ当たりもいいとろころだが、今頃は恋人と戯れているであろう人々を羨みつつ妬みつつ、買ってきた靴下を壁に掛けた。
 落ち着いた僕の部屋の中で、それは妙に浮いていて、僕を余計に寂しくさせた。やっぱり買ってこなければ良かった。
 しかし、この靴下はデザインからしても、大きさからしてもそれ以外に使い道がない。こんな真っ赤で大きすぎる靴下はとてもじゃないが履けない。それに、そもそも片足分しかないから、靴下としては初めから不良品だ。
 ――けれど、だからといって、壁に掛けておいたところで、僕にプレゼントをくれる人がいるわけでもない。
 そう考えると、ますます寂しくなって、一人寂しく食べようと思って買ってきたコンビニのケーキ(2個入り)を冷蔵庫に入れてから、カバンを床に投げ捨てる。そのままベッドに倒れ込む。
 昼から何も口にしていないけれど、空腹感は感じない。それよりも、ただただ眠かった。
 というよりも、眠ってしまいたかった。
 今は冬休みだ。明日はどこにも出かける予定がない。ゆっくり寝れる。あと、来年は今日みたいにクリスマス・イヴの深夜までバイトをしたりしない。
 電気を付けっぱなしにしたまま、そんなことを考えていたが、いつの間にか意識が落ちていた。

 一度目は、眠ってからしばらくして、寒さと尿意によって目が覚めた。電気がついたままの部屋の中をまっすぐにトイレの方へと進む。まだ起きていない両目はほとんど役に立たなかったが、身体は慣れた道を勝手に進んでいった。そして、用を足した後、エアコンの電源を入れて照明を消してから、もう一度眠った。

 二度目、目覚めたときはすでに昼近かった。短針はXIのあたりを指しているし、部屋中が日光と壁紙の白で満たされていた。昨日、僕を寂しがらせた赤い靴下はどこにもない。
 ――赤い靴下がない?
 もう一度、眠い目で室内を見渡してみる。部屋の中にはまだ寝ている鞄と山積みにされている週刊少年マガヅンくらいしかない。やっぱり靴下は見あたらなかった。
 まあ、いいか。大したものでもない。もしかしたら、壁に掛けたつもりで、どこか別の場所に置いたのかもしれない。そんなことはどうでもいい。
 面倒になってもう一度眠ろうとした。今日は誰にも邪魔されずに寝続けられるんだ、あんなものに構う必要なんて無い。予定もないんだからゆっくり寝よう。布団を被りなおして目を閉じる。
 しかし、どこかから「メリ~クリスマ~ス」と聞こえた。
 うるさい。
 テレビを確認する。画面には室内の様子が映り込んでいるだけだ。声は止まらない。
 うるさい。
 目を強く閉じなおす。声はまだ聞こえている。
 うるさい。
 布団を頭まで被る。声が少しずつ近付いてくる気がする。
 うるさい!
 耳元へと近付いてくる騒音に、怒りを込めた寝返りを打った。
 途端、騒音は「きゃっ」と声を上げて止まった。
 僕も驚いて頭を布団から出すと同時に、目を開けて何が起こったのかを確認しようとする。
 そこにあったのは栗色の髪と満面の笑顔を携えた女の子だった。僕の布団に入っているから見えないけれど、服を着ているようには見えない。
「メリ~クリスマ~ス♪」
 突然のことに何も言えない僕を無視して、彼女はそう言った。
 ――さっきから、うるさかったのはコイツかよ。
 ――そんなことより、なんで勝手に俺の家に入って来てるんだ。
 ――いや、むしろ同じ布団にいる方がおかしい。
 ――俺、一人で帰ってきたよな。
 ――鍵もちゃんと閉めたよな。
 ――だとしたら、コイツ不法侵入だろ。
 ――訴えてやろうか。
 ――でも、この娘なら、別にいいかも。
 ――いやいや、ダメだ。
 ――ここは毅然とした態度で問いたださないと。
 そこまで考えて、僕はようやく口を開いた。
「め、めりぃくりすます。ところで、君は誰? なんでこっ、ここにいるの?」
 我ながら、最悪の反応だった。毅然の「き」の字も見いだせない。
 しかし、僕の言葉を聞いた女の子は少しだけ不思議そうな顔をして、少しだけもぞもぞと動いた後、「ん」と布団の端から右足を出して、そこを指した。
 その足は、僕の予想に反して、何も纏っていないわけではなかった。
 ただ、赤い、大きな靴下を履いていた。


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 過去作でお茶を濁すシリーズ(その2)。
 そういえば、クリスマスネタで書いたのがあったハズ……とファイルを探しているとありました。
 なんと、3年前の文章です。
 ――なんで残ってるんだ。

《今日の一言》
 メリークリスマス  ――人類(人類)

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