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「ど、どうぞ。ご賞味ください」
いたずらに続く沈黙に緊張感は増すばかりで、たまらず弱音をつぶやいてしまいました。
もうすぐ三月が終わってしまうということで、急いで書き上げました。
滑り込みセーフっていうやつですね。
ウケモチ様とオオゲツ様は同一視されることもある神様みたいですが、このお話では姉と弟という間柄にしてみました。
この二柱はかの有名なツクヨミとスサノオとの間に因縁があるので、アマテラス様としてはちょっとやりづらい相手かもしれませんが、今回のお話ではあまり遠慮してないようですね。
というわけで今日のキーワードは「ハクナマタタ」です。
「それは構わんが……。その呼び方はやめろと言っておるだろう」
「もうしわけねぇ」とさほど悪くも思っていないような様子で応える因幡は、アマテラス様の言葉よりも薪の様子が気になるようです。
さっきからしきりに木の枝でああでもないこうでもないと火の具合を調節していて、人の話を聞いているやらいないやら。アマテラス様は思わずため息をもらしてしまします。
「どうしたんです? 腹、減りましたか?」
「……いや。何でもないさ。しかし、お前はオオクニヌシの所にいなくていいのか? またあの猪の異形に襲われるかもしれないという時に、主人を側で守るのが従者の務めだろう」
「旦那のことなら心配いりませんよ。なんてったてオオクニヌシの旦那ですから。あんな優男ですが、ろくでもねぇ兄貴たちの度を越した嫌がらせに長年耐え抜いただけの根性とたくましさってのは持ってるんですよ。そうゆうのは有事の時に、案外頼りになるもんです。それに今は頼れる毘沙門天様が近くにいてくださるんだから怖いもん無しでさぁ。だいたい荒事となりゃ俺みたいのは鼻っから役に立ちませんから、旦那の言いつけ通り大事な客人を無事に屋敷まで連れ戻すことが、今俺に出来る旦那への最大の忠義ってやつなんだと思ってますよ」
相変わらず薪をいじり続ける因幡でしたが、今度はちゃんとアマテラス様の話を聞いていたようです。
普段となんら変わりのない調子の良い軽い口調でしたが、その言葉の中には確かにオオクニヌシへの信頼と忠誠心が感じられました。オオクニヌシが何故彼を側に置きたがるのか、アマテラス様にも少しわかったような気がします。
「それに旦那は出雲の名家の出ですからね。なんでもスサノオとか言うそれはもうどえらい神様の血を引く家柄らしいですから、ちょっとやそっとのことじゃあ、くたばりゃしませんよ。まぁ俺は無学なんでそのすごい神様ってのが、これこれこうゆう神様だってとこまではよく知らねぇんですがね」
「スサノオ……?」
全く予期していなかっただけに、その名前が因幡の口から発せられたことに対する驚きをアマテラス様は隠す ことができませんでした。案の定、因幡の方も少し驚いたような表情でアマテラス様を見つめています。
「もしかして御大将、スサノオ様って方をご存じなんで?」
「まぁ、そうだな。確かに知ってはいる。大したことではないが、あいつとは色々と付き合いがあったんだ。何にしても、もう気の遠くなるような昔のことだが……」
自分でも嫌になるくらいあまりにも下手なごまかしでしたが、因幡は敏感にこちらの気持ちを悟ってくれたようで、「そいつはすげぇや」と当たり障りのない言葉を発するだけで、それ以上何か聞こうとするわけではなさそうでした。
「すまないな」
「はい?何のことです?」
そんな風にわざとらしく返事を返す因幡が、これまた大げさにとぼけたような顔をしていたものですから、アマテラス様は思わず吹き出してしまいました。
「なんです。人の顔見て笑いだすのはいくらなんでも失礼でしょう」
「いや、悪いな。別になれない芝居をさせる気ではなかったんだが」
「いやね。御大将が何を言ってるかはわからねぇんですがね。あれですよ。俺だって話たくねぇ事の二つや三つや四つや五つは持ってますってことですよ。」
「お前はいい従者になれるだろうな。調子が良くて抜け目ないが、頭は切れるし気も使える」
「いやいや、御大将におほめいただくとは光栄でさぁ」
~あらすじ~
山越えのさなか、毘沙門天の「近道をしよう」という提案で案の定、迷子になってしまったアマテラス御一行。どうしたものかと途方に暮れているところを、このあたりの領主に仕える因幡という男に助けられます。彼の計らいで、奉公先の屋敷に泊めてもらうことになった一行でしたが、そこで出会ったのが領主の一人娘のヤカミ姫と彼女の婿養子であるオオクニヌシ。彼らは後日、このあたりで最も高い山である手間山の山頂で、土地の神様に自らをその土地の統治者として認めてもらうために「国褒めの儀」を執り行うとのこと。すったもんだでその儀式に同行することになったアマテラス御一行でしたが、山を登る道中で謎の猪妖怪に襲われてしまいます。はたして妖怪の正体は?オオクニヌシ夫妻は無事に儀式を執り行うことができるのか?
猪妖怪「赤猪」に襲われた後、一行はばらばらになってしまうのですが、本文はその内のアマテラス組が河原で野宿をする際の一場面です。
本当はこの後の会話を書きたかったのですが、それを書こうとするとあまりにも長くなるAND二月中に間に合わないという事で今回はカット。
そのせいで、本来はアマテラス様中心になる場面のはずがゲストキャラクター因幡の独壇場となってしまいました。でも彼の口調は書いていて楽しいです。
というわけで今日のキーワードは「クロマトグラフィー」です。
「ここの海に住む人々がタキリ様を忘れてしまったことは悲しいことですけど……、でもほかの場所にはタキリ様のお力を必要としている人々はいるんじゃないでしょうか? 私とアマテラス様も新天地を探して旅をしているんです。タキリ様も、ここではない何処か新しい場所で新しい信仰をお集めになるという選択もあるんじゃないでしょうか?ご姉妹も一緒に列島を旅して、困っている漁村やなんかを助けて回るんです。そうだ、どうせなら私たちと一緒に行きましょう!素敵です、きっと楽しい旅になりますよ!」
なんとかタキリ様を励まそうと、なごみちゃんはわざと明るく振る舞ってそんな提案をしてみたのですが、どうもうまくいかなかったようです。洞窟の中は相変わらず重苦しい空気が漂い、しんと静まり返っています。
もちろんなごみちゃんだってこんな提案がみんなに賛成してもらえると思っていたわけではありません。それでもなごみちゃんは頼りない空元気をふりまかずには居られませんでした。
タキリ様のお話はあまりにも悲しすぎたのです。
「ありがとう、なごみさん。でもその御誘いはお断りしなくてはなりません。私はここを離れるわけにはいかないのです。私はここの土地神ですから」
「とちがみ、ですか?」
タキリ様の口から発せられた言葉は、なごみちゃんにかつて対峙した恐ろしい神の姿を思い出させました。
ぬらぬらと光沢を放つねっとりとした肌。ぎょろぎょろと不気味に動く大きな目玉。アマテラス様となごみちゃんの運命を変えた、タタリを与えしオオワの土地神です。
「土地神って言うのはね、なごみちゃん。その土地に宿りし魂なんだよ。その土地で信仰され、その土地で祀られてはじめて力を得る神なんだ。だからあたしらやアマテラス様の用に全国行脚ってわけにはいかないのさ。アマテラス様に仕える巫女なら、これぐらいは知っておいた方がいい」
不吉な過去の記憶に放心していたなごみちゃんに、大黒天様が優しく語りかけます。確かに眼の前のタキリ様は、オオワの土地神とは違い、清潔感があって穏やかな印象です。
土地神という言葉に、なんとなく嫉妬深くて陰湿なタタリ神の印象を当てはめていたなごみちゃんは、思わぬところで考えを改めることになりました。そして、土地神という存在を正しく理解したからこそ、なおさらタキリ様が不憫に思えてなりませんでした。
その土地に宿ってこその神様なのに、もうその土地に信仰は残っていないのです。
「そうゆうことです。それに、たとえ自分や妹たちが土地神でなかったとしても、私たちはこの土地を離れようとは思わないでしょう……。」
深い憂いのこもったタキリ様のつぶやきは、なごみちゃんの心を切なくふるわせました。自分にとって大事な意味を持つ場所を好き好んで離れたいとは思わない。そういった気持ちが、なごみちゃんには痛いほどよくわかったのです。
なごみちゃんはオオワの村が好きでした。
のん気で気楽な村人たちのことが好きでした。自分を育ててくれた長老やおばあさんが好きでした。社に射す朝日の輝きや、吹き抜ける風の匂いが好きでした。一度だって村を出たいとは思わなかったし、ずっと村の社の巫女として生きて行くことに、幸せを見出すことだってできました。
それでもなごみちゃんが村を出たのは、ひとえにアマテラス様に対する思いがあったからです。
なごみちゃんはあの数日間で知ったのです。アマテラス様が自分を信じる者に対し、どれだけ深く尊い慈愛を持っているかということを。そしてその慈愛に触れたからこそ、なごみちゃんは村を出ることを決めたのです。
それは決して村を捨てるということではありません。なごみちゃんは今でもオオワの村を愛しています。
ただ、なごみちゃんにはアマテラス様への一途な思いがあったのです。アマテラス様を慕い、仕えたいとう思いがあったのです。
その心が、なごみちゃんを旅路へといざなったのです。
ですが、タキリ様に対してそんな思いを抱くものは、もうこの土地には残されていないのかもしれません。そう考えると、なごみちゃんはますます辛くなってしまいました。息が詰まるような悲しみに、思わず涙をこぼしそうになります。
「面目ねぇ……。ほんとうに、面目ねぇ……」
堅い岩肌の上に正座してうつむいたままの正吉君の口から、絞り出されるようにしてこぼれ落ちてくる謝罪の言葉が、小さな洞窟の中に物悲しく響き渡りました。
~第四話あらすじ~
海にほど近いとある宿場町に立ち寄ったアマテラス様となごみちゃん。そこで偶然出会ったのは七福神バンドの新メンバー、大黒天様と毘沙門天様。これも何かの縁と旅路をともにすることになった一行でしたが、町に泊まったその夜に、なごみちゃんは不思議な夢を見たのです。
夢に出てきた女神様はなごみちゃんに助けを求めている様子。彼女の願いを聞き届けるため、彼女が祀られているという離れ小島の祠を目指す一行でしたが、海辺の村に住む人々は誰もその祠の場所を知りません。それどころか、海に水妖が出るようになったせいで船を出すことができないという始末。
はたして夢に出てきた女神を無事に助けることはできるのでしょうか……。
本文は夢の女神であるタキリビメノミコト(多紀理毘売命)の祀られる祠で、彼女の悲しい境遇を一行が聞く場面です。
最後に出てきた正吉君は近くの漁村に住む青年で、水妖にも恐れず一行の乗る船を手配してくれたいいやつです。
今回は書くのに苦労しました。
場面やセリフのイメージは頭の中で出来ているのにそれを上手く形にすることが出来なくて……。
文章を書いたり絵を書いたりするという作業は、まさにイメージを形にするという事なわけですから、それに苦労しているようでは、物書きとしていけないような気もします。
それと同時に、何の苦もなくイメージをアウトプットできる事なんてそう簡単に出来はしないし、それこそプロでもむずかしんじゃないのかという風にも思います。
あんまり生産的な思考ではないですね。
まぁそんなわけで、UPしようかどうか迷ったのですが、以前3LDKに「なごみちゃん月一更新宣言」をしてしまったので約束を守るためにUPしました。
はたしてこの約束もいつまで守られる事やら……。
この更新ぐらいは夏まで続けたいものです。頑張ります。
というわけで今日のキーワードは「私はなぜここにいるのか?」です。
ほんの気まぐれで靴下を買ってきた。
子供が部屋の壁に掛けてプレゼントを入れてもらうためのものだ。普段ならこんな無駄遣いはしないのだけれど、なぜか買ってしまった。ここ数日、バイトで忙しかったから、判断力が鈍っていたのかもしれない。
もちろん、二十歳を過ぎてサンタクロースを信じているわけではない。
ただ、一人暮らしをしていると、どうしても季節感に欠けてくる。淡々と毎日をこなして、暑さも寒さもただの気温の変化に成り下がる。僕のような学生なら大抵そうだろうし、彼女がいないとなればなおさらのことだ。
八つ当たりもいいとろころだが、今頃は恋人と戯れているであろう人々を羨みつつ妬みつつ、買ってきた靴下を壁に掛けた。
落ち着いた僕の部屋の中で、それは妙に浮いていて、僕を余計に寂しくさせた。やっぱり買ってこなければ良かった。
しかし、この靴下はデザインからしても、大きさからしてもそれ以外に使い道がない。こんな真っ赤で大きすぎる靴下はとてもじゃないが履けない。それに、そもそも片足分しかないから、靴下としては初めから不良品だ。
――けれど、だからといって、壁に掛けておいたところで、僕にプレゼントをくれる人がいるわけでもない。
そう考えると、ますます寂しくなって、一人寂しく食べようと思って買ってきたコンビニのケーキ(2個入り)を冷蔵庫に入れてから、カバンを床に投げ捨てる。そのままベッドに倒れ込む。
昼から何も口にしていないけれど、空腹感は感じない。それよりも、ただただ眠かった。
というよりも、眠ってしまいたかった。
今は冬休みだ。明日はどこにも出かける予定がない。ゆっくり寝れる。あと、来年は今日みたいにクリスマス・イヴの深夜までバイトをしたりしない。
電気を付けっぱなしにしたまま、そんなことを考えていたが、いつの間にか意識が落ちていた。
一度目は、眠ってからしばらくして、寒さと尿意によって目が覚めた。電気がついたままの部屋の中をまっすぐにトイレの方へと進む。まだ起きていない両目はほとんど役に立たなかったが、身体は慣れた道を勝手に進んでいった。そして、用を足した後、エアコンの電源を入れて照明を消してから、もう一度眠った。
二度目、目覚めたときはすでに昼近かった。短針はXIのあたりを指しているし、部屋中が日光と壁紙の白で満たされていた。昨日、僕を寂しがらせた赤い靴下はどこにもない。
――赤い靴下がない?
もう一度、眠い目で室内を見渡してみる。部屋の中にはまだ寝ている鞄と山積みにされている週刊少年マガヅンくらいしかない。やっぱり靴下は見あたらなかった。
まあ、いいか。大したものでもない。もしかしたら、壁に掛けたつもりで、どこか別の場所に置いたのかもしれない。そんなことはどうでもいい。
面倒になってもう一度眠ろうとした。今日は誰にも邪魔されずに寝続けられるんだ、あんなものに構う必要なんて無い。予定もないんだからゆっくり寝よう。布団を被りなおして目を閉じる。
しかし、どこかから「メリ~クリスマ~ス」と聞こえた。
うるさい。
テレビを確認する。画面には室内の様子が映り込んでいるだけだ。声は止まらない。
うるさい。
目を強く閉じなおす。声はまだ聞こえている。
うるさい。
布団を頭まで被る。声が少しずつ近付いてくる気がする。
うるさい!
耳元へと近付いてくる騒音に、怒りを込めた寝返りを打った。
途端、騒音は「きゃっ」と声を上げて止まった。
僕も驚いて頭を布団から出すと同時に、目を開けて何が起こったのかを確認しようとする。
そこにあったのは栗色の髪と満面の笑顔を携えた女の子だった。僕の布団に入っているから見えないけれど、服を着ているようには見えない。
「メリ~クリスマ~ス♪」
突然のことに何も言えない僕を無視して、彼女はそう言った。
――さっきから、うるさかったのはコイツかよ。
――そんなことより、なんで勝手に俺の家に入って来てるんだ。
――いや、むしろ同じ布団にいる方がおかしい。
――俺、一人で帰ってきたよな。
――鍵もちゃんと閉めたよな。
――だとしたら、コイツ不法侵入だろ。
――訴えてやろうか。
――でも、この娘なら、別にいいかも。
――いやいや、ダメだ。
――ここは毅然とした態度で問いたださないと。
そこまで考えて、僕はようやく口を開いた。
「め、めりぃくりすます。ところで、君は誰? なんでこっ、ここにいるの?」
我ながら、最悪の反応だった。毅然の「き」の字も見いだせない。
しかし、僕の言葉を聞いた女の子は少しだけ不思議そうな顔をして、少しだけもぞもぞと動いた後、「ん」と布団の端から右足を出して、そこを指した。
その足は、僕の予想に反して、何も纏っていないわけではなかった。
ただ、赤い、大きな靴下を履いていた。
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過去作でお茶を濁すシリーズ(その2)。
そういえば、クリスマスネタで書いたのがあったハズ……とファイルを探しているとありました。
なんと、3年前の文章です。
――なんで残ってるんだ。
《今日の一言》
メリークリスマス ――人類(人類)
「すみませんがこちらから先は関係者以外立ち入り禁止となっております」
上品な出で立ちの男性が、なごみちゃんたちの行く手を遮りました。どうやらこの先が楽屋につながっているようです。
こちらを威圧することのない柔らかな表情で、それでいて有無を言わせず通ることを拒む男性の振る舞いに、なごみちゃんはちょっとだけ怖くなって、ついついアマテラス様の陰に隠れるように身を寄せてしまいます。
「アマテラスが来たとウズメに伝えてくれ。古い知合いでな。一言あいさつがしたい」
もちろんアマテラス様は怖気づくことなどなく、要件を伝えます。
アマテラス様の言葉に、ややいぶかしげな顔をしたように見えましたが、すぐに表情を戻し、男性はゆっくりとした口調で答えました。
「申し訳ありませんが、許可のないものは通すなと言い使っておりますので」
「その許可を得ようとことづけを頼んでおるのだが、それぐらいは構わんだろう?」
「……申し訳ありませんが演者への伝言などは承ってはおりません」
「そう堅苦しくなるな。一言確かめるだけでことは済む」
「失礼ですが、お客様。神様といえど例外を認めるわけにはいきませんので」
「そうゆう魂胆ではないのだがなあ。それ程狡猾な神に見えるのか?」
「いえ、決してそのようなことは」
「ならばよいではないか。大した手間でもあるまい」
「ですが、先ほども申しあげましたように例外は……」
「構いません。その方たちをお通ししなさい。」
突然の声に、やや雲行きがあやしくなってきた会話が打ち切られました。
ほんの少しハラハラしながら二人の会話を聞いていたなごみちゃんは、思わぬ助けに感謝しました。ですが楽屋へ続く通路の奥から姿を現した声の主を見て、それはもうびっくりしてしまったのです。
無理もありません。不意に身の丈七尺はあろうかという長身の女神が現れれば、驚かない巫女の方が少ないくらいです。その上、体つきはたくましく、掌はなごみちゃんの顔ほどもあり、面立ちに至っては、それはもうこれでもかというほど勇ましいものでしたので、なごみちゃんはすっかり怯えてしまいました。
「しかし、イワナガヒメ…」
「ウズメ様からの指示です。後は私がご案内するから、貴方はそのまま警備を続けなさい」
「……かしこまりました」
どうやらウズメ様はアマテラス様が来ていたことに、気付いていたようです。
女神の話に納得したのか、男性は道を空けてくれました。
「どうぞこちらへ。私がウズメ様の部屋までご案内させていただきます」
女神の言葉にうむ、と素直に従うアマテラス様。なごみちゃんも慌てて後に続きます。
「大変失礼しました。中にはアマテラス様のことを存じ上げない若い人間もおりますので」
「いや、構わんさ。そうなるように隠居していたようなものだからな。私こそさっきの若造には申し訳ないことをした。久しぶりにこんな所に出てきたものだから、穏便な振る舞いというの忘れがちになる」
「そのようなことは……。知らなかったとは言え、無礼な振る舞いに対し寛大に対応していただいたと感じます」
女神は心底申し訳なさそうに言いました。真摯な心持が言葉の響きに感じられます。
「そのように言われると逆にこちらが恐縮してしまうな。お前こそ、そう硬くならずともよい。ええと……イワナガ、といったか。」
「はい。お初お目にかかります、イワナガヒメです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。今は訳在ってウズメ様の御側に置いてもらっています」
「なるほど。お前の用に生真面目そうなものが仕えておれば、あいつも随分楽ができよう」
「ありがとうございます。ウズメ様には大変良くしていただいているので、少しでも恩返しができればと努力している次第です」
アマテラス様の言うとおり、イワナガ様は随分と生真面目な性格の用です。初めはその勇猛な体躯に気押されていたなごみちゃんでしたが、その誠実な振る舞いや身のこなしの品の良さを見ると、ほんの少しですが緊張が解けてきました。人も神も、見た目だけでは分からないものです。
その時、ふとイワナガ様となごみちゃんの眼が合いました。ほんの少し解けていた緊張の糸がまたもや張りつめます。
「失礼ですがそちらにいらっしゃるのは……」
「あ、あの、私はなごみと申しますものでして、アマテラス様に仕えさせていただく巫女として御側においていただいているものでして、その、未熟者ですが、精いっぱい信仰しています。あ、お祀りしています!」
とてつもなく緊張したなごみちゃんの自己紹介に、アマテラス様は苦笑し、イワナガ様はきょとんとしてしまいました。
しかし、イワナガ様はすぐに頬を緩めやんちゃな笑みを浮かべると、優しく言いました。
「自己紹介ありがとうなごみさん。ですが、そんなに緊張しなくても構いませんよ。こんななりをしていますが、取って食おうなんて思ってませんから」
「め、めっそうもない!!そんな失礼なことを考えたりなんてこれっぽっちもしていません!!」
慌てて返すなごみちゃんの様子に、イワナガ様は顔をほころばせますが、アマテラス様は思わずため息をもらしてしまいます。
「冗談だと分かろうものを……」
~第三話あらすじ~
かつてアマテラス様の窮地を救い、その華麗なる舞で列島に名をとどろかせた芸能をつかさどりし女神、天宇受売命(アメノウズメノミコト)。ひょんなことから彼女に気に入られてしまったなごみちゃんは、ウズメ様の跡取りを探すために開かれる、神々が集いし舞踏大会「富士・ウズメ杯」に出場することに。
立派な巫女になるためには、舞の技術が必要不可欠だと説得されたなごみちゃんは、舞の指南役として抜擢されたイワナガヒメと修行に明け暮れます。そこに現れたのは、優勝候補の超美少女系女神サクヤちゃん。
強力な好敵手の出現にはたしてナゴミちゃんの運命やいかに!!
こんばんは。
今日のはなんとなく長くなってしまいました。僕の悪い癖です。
今回は新しい試みとして、あらすじを書いてみました。
本文は「富士・ウズメ杯」の開催を祝うお祭でウズメ様の演舞を見た一人と一柱が、ウズメ様に会いに行く途中、イワナガヒメと対面するシーンです。
このお話は結構テンションが高めになる予定なのでちゃんと書いてみるのが楽しみです。
そのためにもまとまった時間がほしいなぁ。
どうもこつこつ書きためるのが苦手です。よくないですねぇ……。
というわけで今日のキーワードは「真空仏陀切り」です。
落ち込むヒルコ様の肩に、弁財天様がそっと手を差し伸べました。
「落ち込む必要はありませんよ。貴方は十分に誇れるものを、神として示せるものをお持ちじゃありませんか」
「そんなことありません。結局何をやってもダメで。私なんか……。」
すっかり自信をなくしてしまったヒルコ様は力なく答えます。ですが、弁財天様はゆっくりと首を振ると、諭すように優しく言葉をつづけました。
「今日一日ご一緒させていただいて、私は気付いたのです。貴方が何物にも代えがたい、素晴らしいものをお持ちであるということに……」
「私にも、そんなものがあるというのですか?」
「もちろん」
弁財天様はおもむろに背負っていた琵琶を構えると、神々しさを漂わせる優雅な指使いで音を奏で始めました。
それは誰しもが知っている、懐かしい響きを持った曲でした。
「聴かせてください。貴方のその美しい声を……」
音楽の神が奏でる音色の何と素晴らしいことでしょう。一人また一人と足を止め、天下の往来は瞬く間に弁財天様の琵琶に魅せられた人々であふれかえりました。
「さあ、歌ってください」
「で、でも……」
「大丈夫です。自信を持って」
「そんな、無理ですよ……」
弁財天様に促されますが、ヒルコ様はなかなか歌いだすことができません。
もともと引っ込み思案な性格ですから、人前で歌を歌ったことなどありません。その上こんなに大勢の人が集まっています。ヒルコ様は緊張のあまり、すっかり縮こまってしまいました。
「どうしよう……」
ヒルコ様の危機に、なんとか助け船を出したいなごみちゃんでしたが、ちっとも良い案が思い浮かびません。こうしている間にも、人はどんどん集まり、ヒルコ様はどんどん小さくなってしまいます。
そんな時でした。アマテラス様の凛々しい声が響いたのです。
「私も聴きたいな、お前の歌を」
場は静まり返り、美しい琵琶の旋律と緊張感があたりを包みます。聴衆もなごみちゃんも、アマテラス様とヒルコ様の様子を固唾をのんで見守っていました。
「……アマテラスちゃん?」
「歌ってくれないか。私たちのために」
アマテラス様はどこまでも真っすぐで揺るぎのない眼をもって、ヒルコ様を見つめます。
突然のことに、はじめはきょとんとした表情を浮かべていたヒルコ様でしたが、アマテラス様の言葉に勇気をもらったのでしょう。さっきまでおびえていた瞳は、徐々に力強い光をたたえ始め、アマテラス様の瞳をまっすぐに見返してゆっくりと決心したように頷きました。
そして恐る恐るではありますが、ヒルコ様は歌い始めます。
その歌声は何処か頼りなく、お世辞にも上手いとは言い難いものでした。
ですが、不思議と心地よく、魅力的な歌声でもあったのです。
「なんだか、幸せな気持ちにしてくれる歌声じゃありませんか?」
そんななごみちゃんの問いかけに、アマテラス様はただゆっくりと頷くのでした。
新キャラの弁財天様とヒルコ様(のち恵比寿様)は七福神より登場してもらいました。
この夢紀行シリーズでは七福神になごみちゃんとアマテラス様の周りを固める役割をしてもらおうと考えています。
基本的に一回限りのゲストではなく、物語のそこかしこに登場して話を盛り上げてもらう感じです。
たとえるなら、風まかせ月影蘭でいう猫鉄拳のみゃお姉さん見たいな位置ですかね。
え?余計分かりにくい?
なおオリジナルの七福神だと男女比6:1と大変偏っているので、その辺はいじって勝手にキャラ付けしてみました。
今回の出演者に関して言うと弁財天様は男神、ヒルコ様は女神になってます。
ちなみに弁財天様はご利益バンド「七福神」を結成するための神メンバーを集めようと各地を旅しています。
また蛭子命→恵比須神という話を聞いたので、ヒルコ様とアマテラス様は姉妹みたいな感じで捉えています。
なのでヒルコ様は恐れ多くもアマテラス様をちゃん付けで呼べるわけです。
というわけで今日のキーワードは「話上手は聞き上手」です。
以前3LDKが「ハルヒシリーズは二次創作ネタの宝庫である」みたいな話をしていたのですが、神話なんかもネタの宝庫であるなぁと思います。
カッコよく言うと、文章を書く上でのインスピレーションを与えてくれるモチーフが数多くあるという感じでしょうか。
しかし、こんなものでも書くのに一時間近くかかってしまうという恐ろしさ。
冬の原稿もこつこつやっていかないとまずいなぁと自覚しているところです。
というわけで今日のキーワードは「後の祭り」です。